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名古屋高等裁判所 昭和62年(ネ)277号 判決 1988年1月28日

控訴人 株式会社カネカ

右代表者代表取締役 加藤八重子

右訴訟代理人弁護士 近藤之彦

被控訴人 加藤兼光

右訴訟代理人弁護士 端元博保

同 飯田洋

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者の主張は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の付加した主張)

1  控訴人は、カネカ食品株式会社を母体とする同族会社であって、株主、役員はすべて控訴人代表者と夫婦及び親子の関係にある。そして、昭和五〇年三月の設立当初から、株券不発行の合意がされて今日に至っている。同族の子会社においては、こうした株券不発行の合意は、商慣習としても行われているものである。

2  本件株券の発行の問題が生じたのは、前記カネカ食品株式会社の内紛及び控訴人代表者と被控訴人間に離婚問題が発生したことによる。

(被控訴人の付加した主張)

1 控訴人の前記主張1のうち、控訴人がカネカ食品株式会社を母体とする同族会社であることは認める。株券不発行の合意がされた事実は否認する。

2 株式会社における株主の株券発行請求権は、株式会社の本質上、定款若しくは総株主の同意をもってしても奪うことのできないものである。したがって、株券不発行の合意が存すると否とにかかわらず、株主が会社に対して株券の発行を請求したときは、会社は株主に対して株券を発行しなければならないものである。

理由

一  請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二  控訴人の抗弁について判断する。

1  控訴人は、被控訴人において、控訴人の親会社であるカネカ食品株式会社の代表取締役をしていた当時、取締役としての競業避止義務に違反して右会社の競業会社を設立したことがある上、本訴請求にかかる株券を取得次第、その株式を暴力団関係者に売却して控訴人会社を潰す旨公言しているから、こうした被控訴人の言動は公序良俗に反し、控訴人が右株券の発行を拒否することは許されるべきであると主張する。しかしながら、仮に、被控訴人が右主張にあるような言動に及んだとしても、それだけで控訴人において株主である被控訴人の株券発行請求を拒否できるいわれはなく、右主張は、主張自体理由がないものといわなければならない。

2  次に、控訴人の株券不発行の合意の主張について検討する。

株式会社にあって会社が株券を発行しないことが許容されるのは、株主が株券の所持を欲しない旨申出た場合に限られることは商法二〇四条、二〇五条、二二六条、二二六条の二第一ないし第三項の規定により明らかである。それ故、右の場合を除いて単に会社と株主との間において株券不発行の合意がされたとしても、そのような合意は右規定の趣旨に徴して無効であると解するのが相当である。したがって、控訴人の主張する会社と株主間の株券不発行の合意は、実質的には株主の株券不所持の申出とこれに応じる会社による株券不発行の措置と解すべきものであって、株主が株券の所持を欲しない限りにおいて有効であるが、そのような合意があったとしても後に株主が翻意して株券の発行を請求した場合においては、同法二二六条の二第四項により、会社はもはや当該株主が会社との間で株券不発行の合意をしたことを理由に株券の発行を拒むことは許されないと解するのが相当である。そうであれば、被控訴人が控訴人に対し、本訴請求によってその所有の株式にかかる株券の発行を請求している以上、控訴人が主張する株券不発行の合意の有無にかかわらず、控訴人は被控訴人に対し株券の発行を拒むことは許されないから、控訴人の右主張も採用できない。

三  よって、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宇野榮一郎 裁判官 日髙乙彦 三宅俊一郎)

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